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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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あらしのよるに

嵐の夜に避難先の山小屋で出会ったヤギのメイとオオカミのガブ。闇の中でふたりは友情をはぐくみ、再会を誓う。約束の場所で、ふたりははじめてその正体を知る。

シンプルなストーリーに素直な愛情表現、親でも子でも、誰かをおもう純粋な気持ちを思い出して入り込める映画です。

障害の多い愛、というのは太古から人の心を惹きつけてやみません。古事記からはじまって、近松の心中ものや、もちろんロミオとジュリエットも。人は愛によって生き、生かされているという証なのでしょう。

しかし語り継がれてきた作品はそのほとんどが死をもって悲劇に終わります。報われぬからこそ人の心を動かすのかもしれませんが、理想としてはやはり愛はなにものをも凌駕するほどに偉大であってほしい。少なくとも、子どもでいるうちはそう信じるべきだと思うのです。

もちろん、食物連鎖は伝説よりも昔から存在する自然の法則であり、それに準じたラストであっても不自然ではありません。それも教訓のひとつとなりましょう。しかし愛がテーマである以上、ハッピーエンドを願う観客を裏切らなかったのは最良のエンディングだったと思います。

最近は漫画でも効果線や背景をパソコンで描くそうですが、この作品は技術に凝りすぎずシンプルで、非常にあたたかみのある素朴なアニメーションでした。緑や岩山などの自然風景、さまざまな動物たちの動きの描きかたも優れています。

ただこのお話、メイが主人公なのかと思いきや、食べられる者(弱者)であるメイは純粋無垢な信頼ひとつでガブに寄り添っているだけで、食べる者(強者)であるガブはつねに我慢しメイを守っている状態なので、どうもガブ寄りの視点になってしまいます。旅の途中、空腹を満たすためガブはこっそり野ねずみを食べますが、メイはそれに気づき非難します。ガブはわざわざメイが寝ている隙を見計らっているのにもかかわらず。メイからすればそうやって自分に遠慮することも気に入らないのかもしれませんが、ちょっとガブがかわいそうだなと。

あと、群れの人々もオオカミ側のほうが魅力的でした。女をはべらす片耳のボスは非常にクールでダンディだし、調子のいい仲間たちにも個性があります。声優もヤギ側が圧倒的にヘタクソばかりでした。芸能人が多かったからかもしれませんが。

この作品のキャスティングも最近の傾向にならい本職が少ないのですが、中村獅童はあいかわらず本人の色がなく、まったく遜色ありませんでした。成宮寛貴も器用な俳優だとは思うのですが、いかにも成人男性の声ではかわいらしいヤギのフォルムにはミスマッチ。設定では男の子のようですが、作品中性別はあきらかにされておらず、一人称も「わたし」なので、女性とはいわずとも中性的な声優を使えばよかったのにと思います。

評価:★★★☆(3.5)

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ヤスオーと古都の片隅で暮らしています。プロ野球と連ドラ視聴の日々さまざま。
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