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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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『不毛地帯』

原作ありきのドラマは、ここが大事とこちらが勝手に思っている部分を端折られることが多いのですが、2クール使ったおかげで、その不満はありませんでした。

ただ。シベリアと石油開発の部分は期待より短すぎかも。とくに後者は走りましたね。これはおそらく最終話ギリギリで「打ち切り」の判断が下されたせいのような気がしますが・・・。

いちばん印象的だったのは、シベリアの凍土に無数に並ぶ墓標の前で、夜明けの空の下壹岐たちが佇む場面です。画面左側、おそらく当初は整然と立てられていた墓標が、右側、数が増えていくにしたがい乱立するようになった。異国の地で命を落とした仲間たちの無念の思いに、生き残った抑留者たちはかける言葉もなく、ただ黙然とその骨を埋めるしかない・・・戦後日本の歴史では語られることの少ない無惨な姿でした。

坂本龍一の主張の少ない、しかし存在感のある音楽もすばらしかったです。

しかし特筆すべきなのは唐沢寿明の演技です。『白い巨塔』は、正直ミスキャストの感があったのですが、今回はすばらしかったです。台詞もあまりなく、感情をあらわにする場面も少なかったのですが、過去のトラウマ、鮫島への不快感、千里への慕情など、ちょっとした時に見せる感情の揺れが、壹岐正という、かつては戦争、そして企業の中でもまれ、日本という国の先頭に立ちながらも、決して己の信念を曲げず意志を貫き通し、ひとりの人間であることを忘れなかった、男の生きざまを見せてくれました。『沈まぬ太陽』の渡辺謙も見事でしたが、唐沢寿明もそれに劣らぬ、山崎豊子の描く矮小でしかし偉大な人間像を体現してくれたと思います。

脇を固めるキャストも原作のイメージを裏切らないものでした。大門社長の原田芳雄は(関西弁が拙いのは仕方ないとして)言うまでもなく、副社長役の岸部一徳は原作を読む時にあの喋りで朗読してしまうくらい。鮫島の痛快な粘着質ぶりはカメレオンのような多面性を持つ役者・遠藤憲一の魅力あってこそですね。千里や紅子も昭和の女らしくて良かったです。狂言回し的な阿部サダヲもいい立ち位置でした。

視聴率がふるわなかったのは残念ですが、この手のテーマで一般ウケしようというのが間違いですね。

でも、ちゃんとついてきた人を満足させるには、充分すぎるほど充分な重厚感を持った、ひさびさに胸にずしんと響くドラマでした。

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