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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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クリント・イーストウッド監督がみずから「演じるのは最後」と主演をつとめた、まるで監督自身の人生観を凝縮されたような男気あふれる作品となっています。

物語は、絵に描いたような頑固じじいのウォルトの妻の葬儀から始まります。

その気性のせいで息子たちとは溝ができ、唯一の理解者であった妻の頼みで様子を見に来た神父も追い返し、相手をしてくれるのは飼い犬と愛車グラン・トリノと缶ビールだけ。住み慣れた街は様変わりし、アジア系の住民が増えて治安も悪くなっている。隣に越してきたのも彼が忌み嫌うアジア系の一家。しかしウォルトは他のアメリカ人のように街を離れることはしない。それもまた彼の頑迷さ故なのか。

隣家の息子・タオは不良グループの一員である従兄の言うがままに、ウォルトの愛車を盗みに入るが失敗。タオは怒った不良たちに庭先で暴行を受けるが、芝生を荒らされることを嫌ったウォルトが奇しくも助けたかっこうに。また、タオの姉スーがならず者に囲まれていた時も通りかかってトラックに乗せたのはウォルト。一家の豪華な料理と感謝の意を受け、とまどいながらもウォルトは、いつの間にか嫌っていたはずの隣家とかかわりを持っていくことに。

硬質で淡々と進んでいった『チェンジリング』とは一転、台詞や展開のところどころにユーモアを差し挟みながら、今回は監督の主張といったものが見え隠れします。

ズバリ、男の生きざま。

日本車を否定し、人種差別意識を捨てようとせず、今時の若者を嫌い、神も仏も信じない。しかし妻を愛する言葉は惜しまず、若い女の子の誘いと旨い料理には弱い。自身の教えを忠実に実行するタオには与うるかぎりの経験と知識を与える。決して弱みは見せない。最後まで。

監督の描くところは明快です。ウォルトという愛すべきひとりの人間の一生。悔いを多く残す過去とその償いのために与えられたような最後の日々。そして彼が大事にしていたグラン・トリノとその生きざまを譲り受けたタオの未来。衝撃のラストと謳いながらも、その予測は多くの観客がしていたところでしょう。しかし過大広告とは思わない。悲しくもあたたかい涙がじわり心を潤す。この非常に分かりやすくシンプルな物語が、大きな感動を呼び起こしたところは衝撃なのかもしれませんが。

シンプル以上の美はないと思う。

石と砂だけの枯山水に哲学を見るように。水墨画の景観が世界を表現するように。

一切の下心を捨てて、余分なものを削ぎ落としたクリント・イーストウッド監督の作品もまた、美を極めた芸術であると思います。

評価:★★★★(4.3)

 

~ヤスオーのシネマ坊主<第2部>~

 いつものイーストウッド映画ですね。ストーリーはいたって単純で、驚くような展開もないし、オチも驚くようなものではないですが、結末に向けた一つ一つのエピソードにまったく無駄がないです。キャラクター設定もベタベタですが、人間関係を丁寧に描いているので、一人一人の人間の感情が自然に理解でき、行動にも違和感を感じさせません。作品としての完成度は間違いなく高いです。この映画はアカデミー作品賞にはノミネートされていないようですが、完成度の高さは作品賞の「スラムドッグ・ミリオネア」と同レベルにはあるでしょう。クリント・イーストウッドが嫌いな僕が言うのだから間違いないです。

 また、「オレは自分の撮りたいものを撮っているんだ」という僕が映画を評価する上で最も重視する監督の信念も十分に伝わって来ます。民族という繊細なテーマを扱っているのにまったく説教臭くないところや、主人公がラストで死ぬのにお涙頂戴の空気にならないところが、この人の「撮りたいもの」がまったくブレていない証拠でしょう。「警察が来るように神に願ったが来てくれなかった」などのちょっとしたセリフにもセンスがあります。懺悔シーンでカメラが神父目線なところや、主人公の病名をきっちり伝えてくれないところなど、鼻につかないぐらいのちょっとした工夫も関心します。まったくもってケチのつけようがない映画です。

 まあ、ケチをつけるとしたら、登場人物の善悪がはっきりしすぎているところと、主人公が「グラン・トリノ」になぜ乗らないのかが良くわからないことぐらいですかね。あと、基本的に、僕は監督と主演が同一人物の作品は「どうせ自分をカッコ良く撮ってるんやろ。」とそいつをナルシストに感じてしまうため好きではありません。僕はイーストウッドを元からナルシストと思っているのでこの映画では余計にそう感じてしまいました。演技自体は悪くはなかったんですけどね。

  僕は、野球で言えばストレートしか投げないようなイーストウッドの映画作りの姿勢は好きではないんですが、ストレートだけでも充分に相手打者を抑えることが出来る(=充実した映画を作れる)のなら、それはそれでいいような気もしてきましたね。同じストレートでも彼の球はとても力強く、打ちにくいのでしょう。、「ミスティック・リバー」、「ミリオンダラー・ベイビー」、「チェンジリング」、この映画と僕がここ数年見た彼の映画は好き嫌いは別にしてどれも完成度は非常に高いですし、彼以外のスタッフも優秀なんでしょうが、イーストウッド自体も映画作りの才能がないことはないんでしょうね。そろそろ認めざるをえない時期が来たようです。  

評価(★×10で満点):★★★★★★★★

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