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まず、この映画の製作に携わられたすべての方々に敬意を表します。
「映像化不可能」とはよく使われる宣伝文句ですが、この作品ほどその表現があてはまる小説もないのではないでしょうか。
国民航空という「架空」の航空会社が舞台とはいえ、それがどこの会社のことか、わからない読者はいないでしょう。作中、史上最悪の墜落事故が起きる現場の名は「御巣鷹山」。その地名を残したことこそ、取材中何度も高い壁にぶち当たり挫折しそうになったという作者の意地なのではと思います。
映画は、あの日あの便が飛ぶ前の羽田空港から始まります。飛行機を背景に写真を撮る幸せそうな家族、妻に電話をかけるサラリーマン、はじめてひとりで飛行機に乗る少年、それを心配そうに見送る母親・・・。
この後なにが起きるかわかっている観客からすれば、そこに笑顔があればあるほど、胸が詰まります。
組合の委員長を務めたばかりに、僻地ばかりたらいまわしにされる恩地元。やっと日本に戻れたと思ったら、今度は事故の遺族のお世話係。最前線で批難を一身に浴びながら、恩地は自分の生き方を、そして会社の在り方を自らに問い続ける。首相に任命された会長の直下で、真の航空会社を目指し新たな船出に出るが、それは長年培われた腐敗経営に対する終わりなき闘いの始まりだった。
カラチ、テヘラン、さらには支店すらないナイロビへの理不尽な異動命令。しかし彼は会社を辞めない。謝罪文を書けば日本に戻れると言われても筆を執らない。家族に責められ、孤独に耐えかね銃を撃ち放ち、それでも折れない彼の生きざまは現代人には理解しがたいものがあります。自身が矜持と語るそれは他人からすれば意固地、とも言えるでしょう。現代、組合活動は形骸化し労使協調が当然になってしまっていますが、生き易いほうへ流れるのは、家族や己の将来を考えれば当然の選択です。太陽は沈む。それもまた当然。しかし彼は沈まない。流れに逆らい、懸命に生きる。
腐敗した経営陣は悪である。それに追従した行天も悪である。それに真っ向から対立した恩地や国見会長は善である。彼らを正しい、立派だ、と手放しで賞賛できないのは、恩地が権力に立ち向かう完全無欠の英雄ではないからです。恩地はモデルこそあれ、作者の作りだした創作上の人間。しかし彼は私の中にいる。観客ひとりひとりの中にいる。なぜなら時に弱さを見せ、心折れそうになる恩地はあまりにも生々しく、か弱きひとりの人間であるからです。
恩地を体現した渡辺謙の演技は見事でした。製作過程を描いた特番を観ましたが、彼のこの映画に対する思い入れの強さをいたるところで感じました。行天役の三浦友和、会長役の石坂浩二も素晴らしかったです。チョイ役にいたるまで豪華キャストでした。お亡くなりになった山田辰夫さんも、『おくりびと』に続き出演時間は短いながらインパクトを残す名演でした。
欲を言えば、休憩時間はむしろ不必要でした。12時間でもいいからぶっ通しでじっくりと観せてほしい、そんなスケールの映画でした。
評価:★★★★★(4.8)
~ヤスオーのシネマ坊主<第2部>~
力作ですね。正直世間やさや氏の評価ほど映画としての出来は良くないと思うのですが、とにかく力作です。TVドラマに毛の生えたような軽いノリのしょうもない邦画が多いなかで、こういう映画は貴重です。制作陣も俳優陣も気合いが入っているのが伝わってきます。それだけでもう合格点は与えられる映画です。
国営企業とも言える航空会社の闇を描きたいのか、一人の男の熱い魂を描きたいのか、たぶんどっちも描きたかったのでしょうが、その二つがどうにも噛み合っておらず、どっちも中途半端になったのが惜しいですね。また、前者の部分ではちょっとこの映画は善を善に、ワルをワルに描きすぎてるなと思いましたし、主人公の恩地を「アホすぎるでこのオヤジは。こんな辛い人事されるぐらいやったらクビ覚悟でさっさと人事権の濫用について法廷闘争したらいいがな。」という思いも持ってしまったので、後者の部分でもあまり感動できませんでした。後者の部分については僕と主人公の価値観の違いが大きすぎましたね。たぶん恩地は何だかんだ言って自分の会社が好きなんでしょう。僕は高度経済成長期を生きた終身雇用制の企業のサラリーマンではないので、自分の会社に忠誠心はまったくないですからね。
しかし労使交渉については、僕は今の会社で働いて最初の3年間組合関係の仕事をしていて、思想や規模も様々な組合の幹部連中と親交があったのでわかるのですが、この映画のような大きな企業の労使の交渉はあんなに単純なものではありません。いかに寝技を使うかが勝負で、特に大きな会社の大きな組合ではそういうのが上手い人ではないと組合の幹部にはなれません。そういう点からも寝技は絶対に出来ない恩地が組合のトップで、表舞台で行われる団交でストを切り出すというのはおかしいと思うんですけどね。そういうところからも恩地にはあまり感情移入できませんでしたね。僕は寝技も一生懸命使っている行天の方が頑張ってるなあと思って見てました。映画の中でも恩地が言ってましたが、自分の生き方に酔える恩地より、自分の心の中にある正義感とか良心とかそういうものを捨てていかなければならない行天の生き方が一番しんどいですから。
俳優陣もすごい豪華で、みんな当然上手だったのですが、やっぱり僕は行天を演じた三浦友和が一番良かったと思います。この人はいつからこんないい俳優になったのかよくわかりませんが、今年の最初の方に観た「松ケ根乱射事件」で良さに気付きました。この映画でも基本的に悪キャラなのですが、ちゃんと自分が悪いことをしていることに対しての後ろめたさのようなものも出せていました。
評価(★×10で満点):★★★★★★★
助演男優賞候補…三浦友和