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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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男たちの大和/YAMATO

 

《大和じゃ! よう見たってくれ。

あれが東洋一の軍港で生まれた世界一の軍艦じゃ。

「お帰り」言うたってくれ。すずさん》

「誰もかれも」の「死」の数で悲劇の重さを量らねばならぬ「戦災もの」をどうもうまく理解できていない気がします、と語るこうの史代さんの作品に出てくる、戦艦大和を紹介する言葉です。

子どもの頃、「戦争」で「兵隊さん」や「子ども」や「動物」や「愛する家族」が「次々に死んでいく」お話や映画をたくさん、読まされ、観せられました。

だから「戦争で死んだ人」は「かわいそう」であり、「戦争とは憎むべきもの、二度とあってはならないもの」と思っていました。

基本的には、間違いではないと思います。

けれど、「戦争で死んだ人」にもきらめく生の日々があったこと。

彼・彼女がこの世に生を受けてからの日々の積み重ねを「かわいそう」のひとことで結論づけることはできないこと。

人の死に触れることは、その人が生きて死に至る歴史に思いを馳せること。

今生きている私がその是非を問う権利はないこと。

その真理を教えてくれたのが岩波文庫『きけ わだつみのこえ』であり今井雅之さんの舞台『THE WINDS OF GOD』でした。

この作品は、あまたの大和乗組員が戦地へ赴く意義を彼らなりに受け止め、意味ある死=意味ある生を完遂する物語です。

太平洋戦争を語るにあたり感情論は排除できません。そもそも戦争に絶対的な正義は存在しない。右から語れば右が、左から語れば左がそれぞれに主義主張を持ち大義名分を振りかざし相手を攻撃するのが常。敗戦国は正義を放棄せざるをえなくなり、勝者の論理が正義となる。

しかし否が応もなく潮流に呑みこまれていった人々を語るにあたり、世界情勢やら国家事情やらを考慮に入れる必要は必ずしもない。ひとりひとりの命の見地からすれば、戦争とは無機質で残酷なもの。片道燃料と知らされ援護もない中、真っ向から米軍機に挑んだ乗組員は、次々と血を流し肉を吹き飛ばされ死んでいく。祖国に思いを馳せることもなく、愛する人の面影も描けないままに。たった、ほんの一瞬で。

米軍機は機械的に空中を舞い弾丸の雨を降らし、それに対峙する乗組員も命ぜられるまま、学んだままに銃砲を操る。その先に人がいて、生きていて、死ぬことには思い至らない(正確には、思い至る描写がない)。人としての思考回路を遮断するのが戦争だ。自覚なきままに殺し合う、それこそが悲劇なのだと思う。

当時の世界情勢、国家事情。この作品においてはあまり語られなかったそれらについては、なぜ戦艦大和が勝ち目のない海戦に臨まなければならなかったのかを端的に説明していました。要約すると「敗戦のために、大和は沈まなければならなかった」――それが真実のところどうなのかは知りません。しかし、戦局が絶望的となった頃、傾き始めた艦長室で、ある軍人がこう言います。「もうこのあたりでよろしいかと」。その外で展開したさまざまな乗組員の「死」よりも、このひとことが心に響き背筋を冷やし言葉では説明しがたい涙を誘いました。もしかしたら、この言葉こそが作品のテーマだったのかもしれません。大和において命を散らした3000人以上の男たち。彼らの生死は「このあたりで」と線引きされた。線引きする者もまた、別の場所から線引きされていた。地の上に立つ人の「死んだらいけん」という言葉が薄っぺらくなってしまうほど、絶望も抑揚もないその台詞には「人の生死を操る」戦争の持つ真のおそろしさをしらしめるインパクトがありました。

かの戦争を知る人たちはまだ大勢いる。しかし語り部たちが勇気を賭して語る体験談を「つまんない」と堂々と言う子どもがいてそれを容認する大人が存在することも事実。戦争を知らない人間が戦争を知るにはどういう手段が有効なのかといえば、やはり映像しかないのかもしれない。

小学生の頃体育館で観たタイトルも憶えていない戦争映画。話がよくわからなくて半分眠かったことしか印象にありません。今でもそういう戦争学習が行われているのかどうかは知りませんが、このような有名な俳優がたくさん出ていて迫力があってスピーディな展開の戦争映画なら、子どもたちの心をつかみやすいかもしれません。もっとも、そこから何をどう学ばせるかは大人たちの手にゆだねられることになるのですが。少なくとも私が学んだように「たくさん人が死んだ、かわいそう」だけで終わってはいけないとも思うのです。

評価:★★★☆(3.6)

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