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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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康一は、仕事人間の父親と口うるさい母親、我儘な妹と歳老いた犬に囲まれて、

郊外の一軒家で暮らす普通の小学生。

友達は旅行だなんだと夏休みを満喫するというのに、自分にはなんの予定もない。

我が身の境遇を嘆く康一の前に突然現れたのは、河童の子ども。

父親はめずらしがり、母親は気味悪がり、妹は家族の中心を奪われて不満顔。

学校のプール授業以外まっ白だった康一の夏休みは、突然色鮮やかに。

河童の仲間を探しにクゥとふたりで東北に出かけたり。

マスコミに追われてテレビに出ることになったり。

そのために友達を失ったり。

いじめられっ子の女の子と仲良くなったり。

宮崎駿や押井守など、卓越した作画技術のアニメが主流の昨今ですが、

昔ながらのアニメ映画といったこの作品では、

愛すべきキャラクターのはずである河童は、さほどかわいくありません。

それでも観ていくうち、この河童が愛すべき存在に変わっていくほどに、

昔気質で義理固い、現代的なノリの上原家と対比された個性が生きています。

また、環境によってたやすく変化してしまう人間の心、

アニメながら、この作品ではそれが生々しく描かれています。

一躍脚光を浴びて得意顔になる康一から去っていく友人たち、

もてはやされていたクゥが妖力を見せたとたん、手のひらを返すように化物扱いする周囲の人たち、

リアルな描写は胸が痛くなりました。

康一だけでなく、家族みんながクゥと出会ったことで何かを得て、

変化を見せたラストが印象的でした。

また、河童と深く心を通わせた上原家の犬の「おっさん」のエピソードには、

涙を禁じえませんでした。動物ものには弱い。

蜩の声を聴くと切ない郷愁に誘われる、

夏休みを忘れた大人にぴったりの作品です。

そういえば、私も夏休みに東北に出かけたことがありました。

河童淵にも行きました。

失われた日本の風景がそのまま残る、はじめてなのにとても懐かしい場所でした。

もっかい行きたいなあ。

評価:★★★★☆

 

 

<おまけ:ヤスオーのシネマ坊主>

 

 この映画は、世間の評判がそれなりに良いのは知っていましたが、しょせん子ども向けのアニメだろうとナメた気分で見始めました。なのに、クゥの父親の河童を役人が斬殺するという、いきなり凄惨なシーンからスタートしますからびっくりしました。ただ、このシーンは後々振り返ってみるとすごく重要ですし、この監督が、作品をヒットさせたいとかファミリー向きにしようとかそういうことよりも、自分のものづくりに対する信念を大切にする人だということがよく分かります。クゥと暮らすことになる上原家の家族のキャラクター設定も、子ども向けとは思えないぐらいよく考えられていますしね。主人公の康一は、最初はクラスのみんなからいじめられている菊池さんを消極的とはいえ一緒になっていじめています。母親は子供と友達感覚で接する今どきの母親です。父親は「クゥを守るために、みんなクゥのことは秘密にしてよう」とか殊勝なこと言ってたくせに、その後は会社の上役に頼まれテレビにクゥの映像を提供したり、クゥと一緒にテレビに出演したりとダメ親父ぶりを発揮します。康一の妹なんて、家族のマスコット的キャラクターをクゥに取られることを恐れてか、兄貴に「クゥを捨ててこい」とまで言います。もちろん映画ですからみんなクゥに出会って変わっていくんですが、四人とも人間臭くて、典型的な善人ではないところがいいですね。

 

 クゥと康一の最後の別れが決してお涙頂戴的に描かれていないところもいいところです。クゥなんか一刻も早く上原家を去りたそうですしね。「のび太の恐竜」のピー助とは一味違います。別れ方も宅急便でクゥを送るという味気ないものですからね。宅急便を受付したコンビニの兄ちゃんも非常に冷たい感じがして、別れのシーンのもの悲しい空気に見事に水を差してくれます。おかげで僕はまったくラストで感動しませんでしたよ。ただ、中盤のオッサンのエピソードは感動してしまいました。オッサンというのは上原家が飼っている犬なんですが、昔は別の奴に飼われていて、その昔の飼い主が学校で毎日いじめられている腹いせに、家に帰ってオッサンを毎日殴っていじめるんです。それだけならただのイヤな話ですが、この飼い主が泣きながらオッサンを殴っているところが、すごく悲しくなってくるんですよ。オッサンも飼い主の気持ちを分かっていますしね。

 

 ヒロインの菊池さんはちょっと中途半端なキャラでしたかね。最後の方でやっとこの子はクゥに会えて、その後母親の愛人であろう男の靴を捨てるシーンがあるのですが、僕は意味が分からんくて、隣で見てたさや氏に「何でこいつこんなことするねん?」と聞きました。もちろんクゥがこの子に何らかの影響を与えたのだろうと思うのですが、それが何なのかがよくわからなかった。あと、この子と康一のちょっとした恋のようなエピソードもあるのですが、康一が菊池さんに恋愛感情を持っているのは分かるけども、菊池さんが康一をどう思っているのかが最後までよく分からなかったです。こんな感情の分かりにくいヒロインは別にいらなかったですね。いらないと言えば、康一がクゥと遠野に行くくだりがあるんですが、家の前で康一を見送ったあと母親が泣くシーンがあるんですね。ここも僕はさや氏に「何で泣くねん?」と聞きました。さや氏は「親の心子知らず」みたいな理由を述べたのち、僕のことを理解力がないとバカにしましたが、いや僕だってだいたいの理由は分かりますよ。さや氏の言ったこともあるし、子どもが大人びてきたのでさびしくなったとかそういうこともあるんでしょう。しかし、泣くというのはやり過ぎです。せっかく映画の世界観に入り込みたいのに、こういう引っかかる描写をされたら、「あれ、監督、ここちょっと狙ったな。」とかいらんこと考えてしまうのでやめてほしいです。

 

 時間はちょっと長かったですかね。2時間超えているでしょう。「河童と少年の交流」という地味で使い古されたテーマで2時間以上見せられるのは、どれだけ脚本や演出が素晴らしくてもキツいです。クゥと主人公の家族が順番に相撲をとったりするような、家族団らんのシーンはもうちょっと短くても良かったでしょう。このへんは監督が少しファミリーを意識してしまいましたね。しかし、総合的には、世間の評価どおりの良い作品だと思いますよ。僕はそんなに好きな映画ではないので★3ですけど。ジブリに比べたら絵は劣りますが、内容は負けていません。

 

評価:★3/(★5で満点)  

 

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