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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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電器屋を経営するガンコ親父と衝突をくり返した挙句、和歌山の田舎を飛び出した三人姉妹の次女・怜。

東京でデザイン会社に就職するも、またまたイヤミ上司と衝突して退職。

家賃も払えず窮乏生活を送っているところに、妹から手紙が届く。

「お姉ちゃんが倒れた、帰ってきて!」

ふてくされた顔がこんなに似合う女優もなかなかいない、上野樹里。

でも、意地っぱりの気持ちはなんとなくわかるんです。

三人きょうだいは真ん中が浮いてしまうとよく言います。

同性だと顕著です。

ミーコ(オカマ)とマイ(女)とクロ(女)は基本的に仲良しでしたが、

クロが居候した時、世話を焼くのはミーコだけで、マイは単独行動していました。

長女は蝶よ花よと育てられ、末っ子は甘やかされ、

「妹なんだから我慢しなさい」「お姉ちゃんなんだから我慢しなさい」

これを言い続けられてはひねくれたくもなりますね。

稲田家においても、長女の瞳は父親に従順でまじめ、三女の香は素直であかるい。

怜だけが異端児です。

香の手紙は嘘で、入院したのは実は父親。しかも仕事中の骨折。

怜は生活費の支援を条件にしぶしぶ店の手伝いをすることになりますが、

量販店の勢いに押され町の電器屋は風前の灯。

身入りのない修理からビデオの予約や家電の移動まで面倒を見る経営方針に反発する怜ですが、

こり固まった怜の意地は、春の訪れとともに少しずつ、解されていきます。

自分の意思を貫くことが仕事だと信じこんでいた怜が、

父親の働く姿や町の人々とのふれあいから柔軟さを学び取っていく過程は、

ベタといえばベタな展開なのですが、

梅の香りまで伝わってきそうな田辺市の風景がすがすがしく、

心を洗われるような作品でした。

怜の反発する原因となった父親の浮気疑惑も、

イナデンを手伝う怜のファーストキスの相手であった元同級生との関係も、

すべてが明確な結論を呈示することなく、怜は東京に帰ります。

地元に残ってイナデンを継ぐ選択肢もあったはず。

でも怜は東京へ戻ります。成長した姿で。夢を追い続けるために。

それでよし。

ふるさとは遠くにありて思ふもの。

評価:★★★☆(3.5)

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