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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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嘘をついたことのない人なんていないと思う。

多かれ少なかれ、ついた人もつかれた人も心にひっかき傷を残していく。

一生、血を流し続けることだって、きっとある。

そんな傷を負ってしまった少女の告白。

政府官僚の長女セシーリアと兄妹のように育てられた使用人の息子ロビーは、

長じて愛し合うようになります。

ロビーにほのかな恋心を抱く、セシーリアの妹ブライオニーは情趣豊かで多感な年ごろ。

が、恋物語にあこがれを抱きながらも実感としてつかめていない彼女は、

姉たちのあやういかけひきと生々しい交情を理解できず、

彼女のついたささいな嘘は、ロビーを犯罪者に堕としてしまいます。

実家を出て看護師となったセシーリア。

獄中から戦地へと赴いていくロビー。

幾つもの無残な死を目の当たりにして、病んでいくロビーの心。

ただ願うのは愛する人のもとへ還ること。

しかし運命の愛も、戦争という巨大な歴史の波濤を乗り越えることはできず、

恋人たちは悲劇の結末を迎えます。

オープニングから印象的なタイプライターの音、

何度も行き来する時間軸。

その意味するところはラストで明らかになります。

「つぐない」--彼女は告白によって償いをしたということなのでしょうか。

否、だと思います。

彼女は彼女の物語の中で、罪の意識により進学をあきらめ看護師となります。

そして姉たちのもとへ謝罪に赴き罵倒を受け、そしてその償い方を示唆されます。

しかし、それは叶わなかった。

なぜなら彼女は謝罪できなかったから。責められることもなかったから。

戦火の中をひとり生き残ってしまったから。

彼女は償うこともできなければ許されることもない。永遠に。

彼女は彼女の物語の中で償い、許されるであろう姿を描くことで、

現実の自分は永遠に責められつぐない許されることのない身であるパラドックス、

それを裁きとして、死の床につくことを選んだのではないでしょうか。

もちろんそれが正しい選択であるとは思えません。

ただ許されることなく生きていくつらさ、

ブライオニーの長年の苦悩は、否定されるべきではないかもしれないとは思います。

原題の言う「贖罪」。クリスチャンではない私には理解しうる教義ではありません。

ただ罪をつぐなうとはどういうことか、それを考えさせられる作品でした。

プライドと偏見に続くキーラ・ナイトレイの美しさは磨きを増していましたが、

ブライオニー役の少女が卓越した演技力で前半を魅せてくれました。

後半では戦地での無機的な映像の長回しが素晴らしかったです。

評価:★★★★☆

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