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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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プレステージ

舞台は19世紀末のロンドン。

ふたりの天才マジシャンが織りなす激しい確執の嵐と深まる謎を描いたサスペンスです。

今またマジックがちょっとしたブームなのか、いろんな手品師がメディアに登場していますが、

手品というのは魔法ではなくタネも仕掛けもございます、

観客もそれがわかっているからなおさら、

何回観察してもわからない鮮やかな手さばきに感嘆するのでしょう。

この映画にも、オープニングからすでに目くらましは始まっています。

ボーデンに妻を殺されたと信じ込むアンジャー。

その復讐心をあざわらうかのように、名奇術師への道をひた走るボーデン。

ふたりの激しい攻防、そのドロドロをなごませてくれるのが彼らを取り巻くふたりの女性ですが、

彼女たちすら、復讐劇の脇役にしか当てはめられなかったことを思うと、

愛さえも利用してしまう男たちの無情さが身にしみてきます。

あたたかい家庭よりも、称賛を浴びるステージの上が、彼らの棲み家なのでしょうか。

どんな手品にもタネはあるもの。

物語の中で仕掛けられたいくつもの謎がラストでひとつひとつ《タネ明かし》されていきます。

いちばん大きなトリックのタネは、「えっ、それアリ?」と、ちょっと首を傾げてしまいましたが、

それを割り引いても、充分に余韻を残してくれる作品でした。

評価:★★★☆(3.8)

 

<おまけ:ヤスオーのシネマ坊主>

 僕はかなり面白かったんですが、おそらくこの映画は賛否両論でしょう。この映画を見る人のほとんどは知的興奮を味わわせてくれるサスペンス映画を期待してると思うんですよ。 たしかに二人の手品師それぞれに秘密があるんですが、アンジャーの方は世間の常識をはるかに超えた突拍子もないオチですし、ボーデンの方も普通に見てたらだいたい分かってしまうから、トリックが明らかになった時の衝撃がまるでないですからね。けっこう期待外れだった人も多いはずです。

 しかしこの映画は原作もので、さすがにオチは原作そのままだろうから監督は悪くないですし、オチが読めるということについても、逆に謎解きを気にすることなく人間ドラマとして楽しむことができましたから、僕にとって全然マイナスではありません。ただ、僕はアンジャーに感情移入して見てたので、彼は最後まで負け続けでなのでかなり後味は悪かったですけどね。

 しかし、アンジャーが負けたという結果は受け入れますが、最後のボーデンの勝利のところで彼の娘への愛情がクローズアップされたのはこの映画の致命的な欠点です。少なくともアンジャーはあのオチの道具があるからお金だってなんぼでも増やせるし手品なんかやらなくてもいいんですよ。僕がそういう野暮な突っ込みを入れないのは、この映画の一つ一つのセリフや表現に、男二人のマジシャンとしてのプライド、相手への敵愾心を感じ、二人の壮絶な攻防を純粋に楽しめたからです。それなのに最後は家族愛が勝ったみたいなまとめ方では本当に萎えてしまいますね。

 この映画でヒュー・ジャックマンやクリスチャン・ベールの演技をほめる人はいても、スカーレット・ヨハンソンの演技をほめる人はいないと思います。それぐらい彼女は存在感がなかった。ボーデンの妻の葛藤とかそんなんもどうでも良かったし、つまりは男を描いた映画なんです。おそらく最近メジャー作品ばっかり撮ってる監督が、客に媚びる精神から「家族愛」というアメリカのベタな映画にありがちな要素も入れてみたんでしょう。それさえなかったらこの映画は満点を付けてもいいぐらいの出来だったので、惜しかったですね。

評価:★4.5/(★5で満点)

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ヤスオーと古都の片隅で暮らしています。プロ野球と連ドラ視聴の日々さまざま。
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