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宇宙人ジョーンズさんの、地球での潜入捜査と称した職業体験がくり広げられる、
缶コーヒーBOSSのCMが大好きです。
ある日「このCMおもしろいよ」とツレに見せると、
「トミー・リー・ジョーンズやないか!」と驚かれました。
実はアカデミー賞も受賞している超大物俳優ということを、
その時はじめて知りました(ただの外国人のオッサンと思っていた・・・)。
宇宙人ジョーンズさんの独白からはじまるこの映画。
'80年代のテキサスを舞台に、
ひょんなことから麻薬取引がらみの大金を盗み出したベトナム帰還兵・モス、
モスの盗んだ金を回収するため空気銃と散弾銃を武器に次々殺人を犯す・シガー、
連続殺人事件の犯人を追う定年間近の保安官・ベル。
それぞれの追跡劇が、息詰まる迫力で展開されます。
私は現代史に詳しくありませんが、
ベトナム戦争がアメリカ社会にもたらした悲劇は並大抵のものではなかったと聞きます。
PTSDが医学会で注目され出したのもこの戦争が初めだそうですが、
一介の溶接工であったモスが、思いがけない大金を前に目が眩み、
愛する妻を実家に帰し自らは逃亡することを決意したのは、
なにものをも生み出さなかった戦争に国全体がはかりしれない虚脱感に襲われていた中で、
ようやく血を沸き立たせる衝動に突き動かされたからではなかったかと思います。
患者用の寝巻きで国境を渡ろうとしたモスを一度は追い返そうとした警備官が、
所属部隊をスラスラ口にした瞬間に態度を変えて道を開けたのも、
生々しい戦争の記憶が共鳴したからなのでしょう。
しかし若者たちは命を危険にさらすこともなく、遊びに酒に溺れ、
街は享楽へと堕ちていきます。
冷酷無比の殺人鬼であるシガーも、自らにルールを課し、
そのルールから逸脱しません。
誰かと群れることも、誰かに頼ることもなく、
すべて己の信念のもと己が手で成し遂げていくさまは、
現代の慣れ合う社会と乖離して見えます。
”No Country for Old Men”--この世は生きづらくなったと嘆くベル。
Old Menの3人が迎えるラストは、三者三様。
未来に光明はあるのか、否か。
Old Menの観た夢は、果たしてNo Countryを示唆していたのでしょうか。
評価:★★★★☆
<おまけ:ヤスオーのシネマ坊主>
この映画は、中盤まではシガーという強烈なキャラクターの面白さと、モスとシガーの追いかけっこの緊迫感を単純に楽しませてくれます。シガーとガソリンスタンドのオッサンとのかみ合わない会話のシーン、シガーのおかっぱ頭、シガーの持つ銃の「ボスッ」というくぐもった音だけで、この映画は水準を満たしていると思います。エルパソ以降は、わざとはしょった表現をすることによって、根本的にはそんなに面白くないと思われるストーリーに謎めいた感じを与えてくれます。ラストは、あまりにもあっけない終わり方で、何とも言えない消化不良感とともに変な余韻を残してくれます。さや氏は上の文章で「未来に光明はあるのか、否か。」とかかっこいいこと言っていますが、しょせんず~っと物語の中心から外れている傍観者的な役割のベルが見た夢の話ですしね。少なくとも夢と希望に満ちあふれたスカッとした終わり方ではないです。しかし何にしろ、これだけ完成度の高い映画は久し振りに観ました。アカデミー作品賞を獲っているのも納得です。直近5年のアカデミー作品賞を獲得した映画「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」、「ミリオンダラー・ベイビー」、「クラッシュ」、「ディパーテッド」、「ノーカントリー」は僕は全部見ましたが、この五つの作品の中からさらにグランプリを選べと言われたら、僕なら「ノーカントリー」を選びますね。評価は満点です。初めは後味がそんなに良くないので★4.5ぐらいにしようかなと思いましたが、この映画ぐらいは満点にしないと満点が出なさすぎると思い改めました。
しかし、前の週に見たのが典型的な娯楽作品「アイ・アム・レジェンド」なだけあって、かなり難解さは感じましたね。説明調のセリフやナレーションが一切ありませんから。漫然と観ていると間違いなくエルパソ以降の展開についていけなくなります。僕も、ベル保安官が、モスが殺されたモーテルの部屋を訪ねるシーン(シガーが部屋に潜んでいるような感じに描かれているが実際はいない。)や、シガーがモスの嫁を殺したかどうかというところは、さや氏の助言なしでは解釈できなかったと思います。特に、シガーとモスの嫁とのやりとりは、シガーの悪役としての信念というか、ルールというか、そういうのが一番良く出ていたシガーという人間の集大成と言っていいシーンなだけに、ここが分からなかったら、その後のシガーが交通信号というルールを守ったのに、そのルールが突然崩壊して事故に遭うシーンの衝撃度が低下してしまっていたところなので、まさにさや氏さまさまです。だからこの映画は一人より二人で観て、色々お互いの解釈を語り合うのがいいと思いますよ。シガーの事故後のシーンでも見方が全然違いますから。さや氏はシャツの入手方法によりモスとシガーは同じ人種だ、しょせん二人とも原題の「No Country for Old Men」にある「Old Men」なんだ(シャツを売った若者達との対比)となかなか味わい深い解釈をしていましたが、僕はそんなことよりもシガーにシャツを売った少年二人の仲間割れが気になってしょうがなかったですからね。これこそまさに「ノーカントリー」の象徴だと思うんですけど。
あと、僕は松本人志信者なので、彼の映画評論本「シネマ坊主」はもちろん全巻持っているのですが、この映画の評論部分に「追いかける男と、追いかけられる男の2人だけで十分見られます。そこに保安官が入ってくるのですが、その必要性を感じなかったですね。」という文章があります。映画の解釈なんて人それぞれだし、松本以外の人がそういう解釈をするのは別にいいんですが、彼がその解釈をしたらダメです。なぜなら松本は自分の「大日本人」という作品で国際情勢を皮肉った描写をしており、それを理解できない、具体的に言うと大日本人と戦う赤いものの正体が分からない人について「あそこのテーマをきちんと理解しないまま『大したことない映画だったな』とは言われたくない」と同じ本で言っていますからね。この映画も、ベル保安官がいないと主要なテーマが意味を成さないですから一緒です。彼は「古き良きアメリカ」を心のよりどころにしていますからね。さや氏の解釈とは真っ向から対立しますが、見ようによっては、強引に自分のルールを押し付けるシガーは、ベル保安官の理解できない、現代のアメリカの象徴とも言えます。僕なんか、「ベトナム戦争ってアメリカ人にとってどういう影響を及ぼしたんだろう。っていうかベトナム戦争ってどことどこが戦って、どっちが勝ったんだ?ああオレは何てアホなんだ。学生の頃ちゃんと世界史を勉強してたらこの映画をもっと楽しめたのに。」と本気で悩んだぐらいですからね。
俳優陣の演技ですが、シガーを演じた役者の演技は100人中100人が褒めると思うので、あえて僕は何も言いません。アカデミー助演男優賞を獲得しているぐらいですしね。トミー・リー・ジョーンズも上手でしたが、彼の実績を考えるとこれも当然のことです。ただ、モスの嫁を演じている役者の演技に注目したのは僕ぐらいでしょう。ケリー・マクドナルドという女優さんらしいですね。シガーとの掛け合いに光るものを感じました。ルックス的にも非常に魅力的ですね。次は彼女が出演している作品をさや氏と作成している観たい映画リストに入れようと思います。
評価:★5/(★5で満点)