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光り輝く君の物語も、斜陽の時代に入ってまいりました。
まじめな息子は出世、美しい娘は入内、自身はようやく皇族扱いに。家内安全、一族安泰、あとは老後を妻とのんびり過ごすだけ・・・のはずだった源氏のもとに降ってわいた女三の宮の降嫁問題。
もし展開を知らずに読んでいたら、
「この色ぼけじじいが! この期に及んでまだ藤壺に未練があるか、紫の上の気持ちを考えろよバカタレが!」
と罵倒していたでしょうが、あらすじを知っている身ですからそこは冷静に、
「主人公が歳を取るとトーンダウンするのが一代記の宿命、しかしここにきてまたひと波乱起こすとは・・・。作者・・・恐ろしい子!」
と紫式部のストーリーテラーぶりに感嘆してしまうわけです。
しかし容姿身分年齢性格問わず、それぞれに個性あるさまざまな女人をはべらせてきたハンター源氏の最後の獲物が、源氏のみならず彼女に恋いこがれていたはずの柏木さえも落胆させてしまうほどのがっかりさんだったとは、皮肉な話です。あげくに継母と密通した自分が、めぐりめぐって妻を寝盗られる身となるとは、仏教でいう因果応報の道理とはいえ予想もつかない展開に後宮は騒然としたことでしょう。
源氏が藤壺と最初に契ったその描写は、物語中にありません。ただ胸中のつぶやきから、何かおそろしく罪深いことを起こしたのだとほの知り、終生光る源氏につきまとう暗い陰が差しこんだことを感じるのみです。ただその相手の藤壺が冷静で頭の良い女性だったことは、源氏にとっては幸運だったのかもしれません。逢瀬を重ねずとも、共犯者としてともに大きな罪を背負っていくことで、不毛な愛の意味を見いだせたのですから。
しかし柏木と女三の宮の間に、絆が生まれることはなかった。一時の情熱は見事に破綻し、死と出家という破滅を導く。源氏と藤壺の精神的な繋がりと比較すれば、あまりにもお粗末な終焉なのですが、柏木が夜通し語りかける甘い言葉の数々は、読んでいる者の心さえ溶かしていきそうなのに、恋を解さぬ女三の宮にはまるで通じず、最後まで実を結びません。もしかしたら源氏がたどっていたかもしれない運命を請け負った柏木には悲劇でしたが、もし女三の宮が藤壺のように罪を隠しおおせる強さを持っていたとしたら、この三人はどのような結末を迎えたのでしょうか。
精神的に幼く、源氏からはうとまれ、紫の上からもライバル視されない女三の宮ですが、それでも彼女は彼女なりに、他の女人にはない魅力を持って描かれています。
柏木の密通より先んじて、琴の名手とうたわれた源氏に指南され、一生懸命琴を練習するシーンがあります。源氏はただ自分の面目をつぶされぬよう、義務感から手ほどきするのですが、女三の宮は上達したと褒められるのがうれしくて素直に喜びます。すっかりハマってしまって、源氏の御渡りがあると琴を二面出して「さっ、レッスンしてちょうだい!」と張り切る女三の宮に、「そんなんもうええがな」とやることやっちゃう源氏のおっさん。人の心を深読みして疑う心を知らない純粋無垢な性格、それが悲劇を招いたといえばそうですが、それはそれでひどく愛らしくいじらしいのです。
容姿の書き分けや、感情的な言動の描写が少ないだけに、それぞれの女人のイメージを具体的に描けないことも多いのですが、ちょっとしたエピソードで生身の人間らしさを感じます。
ただ、頭で思い浮かべる時はどうしても『あさきゆめみし』の図になってしまうのです・・・。柏木の苦悩する姿は切なかったなあ・・・。