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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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『三国志』の4巻を買いに行ったら・・・。

上中下の3冊が漫画コーナーに平積みされていたので、思わずレジに運んでしまいました。

そして本命は忘れてきました。

 

夕凪の街 桜の国のこうの史代さんの作品です。

舞台は戦時中の軍都・呉。

広島から突然呉に嫁ぐことになった、ちょっと天然のすずの日常を描いています。

戦争の暗い影はほとんどありません。

ほとんど面識のないまま夫となった周作との距離を徐々に埋めつつ、

小言の多い小姑のせいかハゲのできた頭を気にしたり、

物資の不足する中、食事作りにあれこれ試行錯誤したり、

大好きだった絵を描いていたら憲兵さんに詰問されたり、

夫の過去にやきもきしたり、

淡い初恋の相手と再会したり、

電車で夫婦喧嘩したり。

 

戦争はもはや日常生活の一部で、苦労にしか見えない数々の不自由も、すず含め周囲の人すべてがあたりまえに享受しています。

白っぽい絵柄は木漏れ日のようなあかるさで、彼女たちを照らし出します。

 

むろん、時代は容赦なく呉の街をその渦に飲みこみます。

数々の別れは避けられず、大切なものを幾つも失って迎えた敗戦。すずの哀しみすら超えた虚しさに、ざらざらした手触りを感じました。

『夕凪』でも感じましたが、作者の卓越した心理描写はほかの漫画家の追随を許しません。

小説でも映画でも不可能な漫画ならではの表現方法が存分に活かされ、読み手は自然に登場人物の心にシンクロし、同じ痛みを憶えるのです。

 

しかし、あたたかいラストを用意しているのがこの作者の持ち味。

気になっていたたくさんのことがきちんとおさまり、最後にほっとできました。

 

私は、この作品をすずと周作のラブストーリーとして読んでいたのですが、

事細かに調べ上げられた風俗の情報量はすごいです。

教科書で学ぶより、この作品を読んだ方がよっぽど勉強になります(あ、お子さまにはちとムズカシイ展開もありますが;)

 

たくさんの宝石のような言葉たちと、

あたたかい笑顔。

 

この世界の片隅に生きる小さな私も、大切な思い出を心に刻みつけて、生きていきたいものです。

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