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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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『たそがれ清兵衛』は未見で、『武士の一分』を先に観てしまった。山田洋次監督による藤沢周平時代劇の二作目にあたります。

舞台はおなじみ、架空の海坂藩。時は幕末、西洋風砲術を学ぶ片桐宗蔵は、回天の時運とは無縁のごとく友人や家族、女中のきえに囲まれ穏やかな日々を過ごす。剣術しか取り柄のないような宗蔵の心の安寧となるのが女中のきえ。お互い心を寄せながら、超えられない身分の壁に二度も離ればなれになってしまいます。

その恋を横糸に、縦糸を紡ぐのは、武士としての矜持。

禄はわずかで身なりといえば袴はよれよれ、月代はボーボー。しかし曲がったことは許せない、己の信念のためなら日中女を背負って街中を歩いても平気。それがサムライとしての誇りと考える宗蔵。脱獄した旧友を追手として斬らねばならなかった苦しみ。しかし相手を絶命させたのは皮肉にも鉄砲という近代的武器だった。幕末、斜陽の時代。誰よりも武士であろうとした男の、武士として下した最後の決断が、そのまま時代の決着であったのかもしれません。

ところどころ、山田洋次らしいユーモアをはさみながら、描くのは人間の心のぬくもり。誰もが愛すべき人物であり、不器用な宗蔵らしいプロポーズも、その想いを受け取るきえの純粋さも、それまでの場面の悲痛さを柔らかい布で拭い取るような優しさに包まれます。

永瀬正敏の殺陣は少し物足りなさもありましたが、いかにも武骨者の下級武士という風体が似合っていました。松たか子との立ち姿も、キムタクと檀れいに較べると親しみやすく、ふたりの恋を応援したくなるような気にさせられます。脇にいたるまでも丁寧に描かれていますが、とくに田中泯の存在感は圧倒的。『ハゲタカ』といい、『龍馬伝』といい、空気が一気に張り詰めるような緊張感を醸し出せるのはこの人ならではですね。

評価:★★★☆(3.7)

 

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ヤスオーと古都の片隅で暮らしています。プロ野球と連ドラ視聴の日々さまざま。
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