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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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『あしたの、喜多善男』

小日向文世を主役にしたのは、正直失敗だったのではないかなあ。

当初はそう思っていました。

ただの良いひとでしかない主人公に魅力を感じなかったのです。

個性ある脇役のほうがよほど光っていました。

でもそのキャラクターの薄さは、終盤にかけての伏線でした。

ネガティブ人格と融合し、激しい怒りと憎悪に満ちた自己を取り戻した善男の演技には、

危機迫るものがありました。

善男は「ただの良い人」などでは決してなく、

現実から目をそらすために「良い人」に逃げていただけだったのです。

やはり小日向文世の確かな演技力がなければ、あの盛り上がりは出せなかったと思います。

最後、警察から出てきた元妻のみずほと向かい合い、なにかを言いかけるように少し微笑みながら、

でも結局なにも言わず背を向け歩き出す場面は白眉でした。

みずほと復縁もありかと思っていました。

それよりも大きな善男の人間愛でした。

ところで、私の予想は見事に外れてしまいました。

飛行機事故で死んだとされていた心理学者の今井雅之さんは、

岩松了演じるカウンセラーに整形して、みずほを裏で操り、

再婚相手の保険金殺人を企てたんだと思ってたんですよ。

ところがところが、今井さんがなんとナパ(タイ人)になっていた日にゃもうがっかり。

あのうさんくささ全開の岩松了がただのカウンセラーに終わったのにはさらにがっかり。

ふたりとも突出した演技力を持っているのに、

俳優さんも真相を明かされないまま収録したそうなので、ちょっと中途半端になってしまいましたね。

別離を決めた平太とリカ。

リカの朗らかな笑顔をエンディングでしか見られなかったのが残念です。

でもきっといつか立ち直ったリカが平太のところに戻ってくると信じています。

要潤はヒール(しかも小物)として新たな境地を開きましたね。

社長の椅子に座って思わず笑いを漏らす彼は小物感溢れていて、こっちが笑いそうでした。

大きな収穫はやはり松田龍平です。

最後までつかみどころなく、単純なようでひねくれた若者を好演しました。

彼以外の役者ではちょっと想像つかないです。

善男が自殺回避するラストも、謎が明かされた以上自然ななりゆきでした。

ピカピカのスーツを身にまといリュックを背負って、

力強くアスファルトを踏み締める善男の明日は、

善男に限らず、誰しもににとってこれからもずっと光に満ちたものになるに違いありません。

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