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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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コロンビアの小さな田舎町。

貧しいこの国では、花の棘を日がな一日取るくらいの仕事しかない。

女所帯の家計を支えるマリアは、好きでもないボーイフレンドの子を妊娠。

あげくに唯一の仕事も失って家族に非難され、家を飛び出したマリアは、

偶然出会った男に報酬5000ドルの仕事を紹介される。

それは、「運び屋」・・・麻薬をお腹に詰めてアメリカへ渡ることだった。

コロンビアの経済状況はよくわかりませんが、裕福でないことは容易に想像できます。

が、貧しいとはいえたとえばシティ・オブ・ゴッドのような貧民窟のわけではなく、

薄給で単調とはいえ仕事もあり、

マリアの行動は、

自分が稼いだお金もすべて乳飲み子を抱えた出戻りの姉を中心に回る家庭に搾取されてしまう、

理不尽な環境に不服を抱いた少女の反抗にしか見えません。

なので麻薬の仕事に手を出すまでの彼女にはいささか感情移入できかねないのですが、

それ以降の展開は現実的でかつ悲痛です。

巨峰の実ほどのカプセルを60個以上も飲まされて、

苦しさのあまり「排出」してしまったものも洗ってもう一度飲み込んで、

空港ではあやうく逮捕寸前の聴取を受け、

さらには「排出」を終えるまでホテルで監視され、

失敗した同僚は殺害されたうえ死体遺棄。

17歳の少女が直面するには、あまりにも過酷な現実。

それでも彼女は強く生きていくことを選ぶ。

最後にお腹に残った、ひと粒のひかりのために。

男も怯む高い屋根にのぼり故郷の空に近づこうとした彼女は、

世界の誰も憎みません。

お金を持ってこないと罵倒する母も姉も、

彼女を愛さなかったお腹の子の父親も、

麻薬を飲ませた元締めも、

友達を殺した男たちも、

彼女をそこまで追い詰めたその運命さえも。

ただ空を仰ぎ降りそそぐ光を受け続けます。

実際に存在する幾人ものミュールの哀れな現実よりも、

むしろマリアの生きざまに感銘を受けてしまうこの作品、

リアルを描いた社会派というよりは、

爽やかなラストの青春映画でした。

評価:★★★☆(3.8)

 

<おまけ:ヤスオーのシネマ坊主>

 

 ストーリー展開に無理がないし、一つ一つの描写にリアリティがあるし、主演の女優も人間の強さと弱さをしっかりと表現していていい演技をしているし、邦題の「そして、ひと粒のひかり」もこの映画の主題を的確に表していて素晴らしいタイトルです。まあ、特にケチを付けるところはないですね。ドキュメンタリー映画としては、かなり良質な映画なのではないでしょうか。コロンビアの貧困社会で子どもを育てるには、犯罪でもしなければしょうがないんだということはとてもよく分かりましたし。

 ただ、最近見た同じ南米ものの「シティ・オブ・ゴッド」に比べると、一枚も二枚も落ちますね。何が劣っているかと言えば、まず面白いか面白くないかです。どちらの映画も南米で起きている事実に裏打ちされている映画なので、「面白い」という価値基準で観るのは不謹慎かもしれないですが、やはり人生の中の貴重な二時間を使っているわけですから、ただ単に事実を伝えるだけではなく、楽しませてくれる方がいいですね。

 あと、この映画は麻薬の運び屋を引き受けるまでの主人公の置かれている環境が、そこまで絶望的に見えないんですよ。妊娠して彼氏に露骨に捨てられたわけでもないし、仕事も理不尽にクビを切られたわけでもないですからね。もちろん、「このまま今の状態で過ごしていても、らちがあかない。」という主人公の気持ちは、とてもよくわかりますが、絶望的な境遇というほどではないでしょう。

 それに比べて、「シティ・オブ・ゴッド」の舞台となるブラジル・リオデジャネイロの「神の街」は、果てる事の無い破壊と暴力が渦巻く、本当に救いのないところですからね。こんなとこに生まれちゃったら、「ひと粒のひかり」もないでしょうから。僕がどちらの映画の登場人物に人間の持つ生きることへのエネルギーをより強く感じ、感動したかといえば、もちろん後者です。

 評価:★3/(★5で満点)

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