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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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『かもめ食堂』ですっかりブレイクした荻上直子監督の視聴3作目。

前作の影響あってか否か、「スローライフ」という言葉はすっかり世間に定着しました。

北欧の少し浮世離れした憧れいっぱいの雰囲気もいいけれど、

日本には青い海も白い砂浜も心地よい風もビールも梅干しもかき氷もあります。

ゆったり、まったり、ひねもすのたりのたりかな。

「携帯電話も入らないこの浜辺で、貴方もたそがれてみませんか?」

冒頭からそんなメッセージが聞こえてきそうです。

スーツケースをがらがらひいて旅をしに来たタエコを迎えたのは、

「看板を大きくすると客が増えるから」と控えめな表札ひとつの宿・ハマベの主人、ユージ。

と、犬のコージ。

翌朝、タエコの寝床の脇に座っていたのはサクラさん。

彼女は春先にこの地に現れ、浜辺でかき氷をふるまいます。

ユージや浜の子どもたちは、彼女考案の奇妙な《メルシー体操》を毎朝踊っています。

かわいい生徒がいないと嘆く生物教師のハルナ。

タエコを「先生」と呼び、追ってきたヨモギ。

全員なぜか眼鏡をかけているこの5人(と1匹)、

メルシー体操とたそがれで送る、スローライフな日々を描いた作品です。

食事は人間にとって欠かせない行動のひとつです。

おかずひとつひとつをきれいに盛りつけて手を合わせていただきますと言い、丁寧にお箸で口に運ぶ。

バーベキューで匂いにつつまれ肉をほおばる。

昼日中からビールをジョッキであおる。

監督は食にこだわりがあるのか、観ているだけで満たされそうな場面をきっちりと描いています。

が、重要なアイテムとして使われている、サクラさんのかき氷。

 『かもめ食堂』でのおにぎりにあたる役割なのでしょうが、

なにものにもとらわれることなく自然のままに生きて北欧に食堂を開いたサチエさんと、

どこから来たのかなぜハマベに逗留するのか、すべての背景が秘められたサクラさんとでは、

その作りだすものの魅力も、違ってくるような気がします。

あこがれるサチエさんのおにぎりは食べたいと思いますが、

謎のサクラさんのかき氷は食べたいと思いません。

『かもめ』では、サチエさんもミドリさんもマサコさんも、それぞれ魅力的だったのですが、

この作品はいかんせんキャラクターが薄く、惹かれる人間がいませんでした。

どこか茫洋としているサクラさんやユージ、ヨモギと違い、

ハルナは唯一、感情的とも言える言動をしますが、

彼女はことあるごとに「死にたーい」とくり返します。

イラッとします。

おそらく観客に「嘘つけ!」とツッコませるためにわざとそういう台詞にしているのだろうし、

真に受けるのもバカバカしいのですが、本当に簡単に言ってほしくないんです。

それで、この映画の魅力が半減しました。

だいいち、

私はたそがれることができない人間です。常になにかしていないと落ち着かないのです。

だからたぶん、ハマベにはたどりつけないと思います。

あこがれ以前の問題でした。

それにしてもメルシー体操は、何かしら効果があるのでしょうか。

痩身に効くならやってみたいんですけど・・・。

評価:★★★☆☆

 

<おまけ:ヤスオーのシネマ坊主>

 この映画は登場人物のセリフや行動が意味深なものばかりなんですけど、後でその意味が分かるようにストーリーが展開されないんですね。というかストーリー自体あってないようなものでした。せめてラストに「実はこの島はあの世」とかそれなりのオチが用意されてたら良かったんですけど、ラストも何もない。わからないことはわからないままで放っておかれ、「あとは勝手に想像してください。」という映画です。何か隠されたテーマがあるんだったらそれがはっきりと分かる描写をしてほしいし、ただ単にスローライフを描きたいだけだったら思わせぶりな描写はやめてほしい。どっちつかずの映画でしたね。この監督はいったい何がしたかったんでしょうかね。

 この映画には「たそがれる」という言葉がよく登場するんですが、たぶんこれは自然と同一化することとか、死に対して悟りを開くことを指していると思います。しかしこの映画で「たそがれている」主人公達にはまったく魅力や敬意を感じず、むしろ嫌悪感すら覚えました。このイラつきはおそらく僕の宗教嫌いに由来していると思いますね。価値観を押しつけられてる感じがしましたから。

 僕がもしこの島に行ったら、間違いなく「マリンパレス」で強制労働する方を選ぶでしょう。薬師丸ひろ子演じる「マリンパレス」の女主人を除いて、この映画の登場人物はみんな嫌いですから。特にハルナは何がしたいのかよくわからなかったですね。タエコのことをうとましがるのは良かったんですが、それも中途半端に終わっていますし。

 メルシー体操やかき氷の物々交換等なんかの描写も見ててうっとうしかったですね。何でそんなことをしなければいけないのか理解できないし、したいとも思わない。本当に何から何まで僕には合わない映画でした。良かったのは舞台となる島の自然が素晴らしかったのと、「めがね」というタイトルぐらいですね。僕はこの監督の映画は「バーバー吉野」、「かもめ食堂」と過去に2作見ていて、どちらもそれなりに良かったんですが、今回は「かもめ食堂」がヒットして監督が自分に自信を持ちすぎたのか、ちょっと独りよがりのクセのある作品になってしまいました。

評価:★1/(★5で満点)  

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