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大泣きした漫画を、ようやく映画で観ることができました。
原作を読んでいただけに、物足りない場面が少々ありました。
「死ねばいいと思われても仕方ない人間になってしまった」皆実の行為が語られなかったこと、
「長生きしいよ」は、妹ではなく姉に言わせてほしかったこと、
皆実や旭に「幸せ」という言葉をあらためて口にさせる必要があったのかどうか、ということ。
旭が京花にプロポーズする場面も、好きだっただけにちょっとがっかりです。
でも、それはそれとして、素晴らしい出来だったと思います。
原作が良作であればあるほど、別メディア化されると「別作品」になってしまいますが、
これは原作の感動ほとんどそのままです。
監督の独自性をあえて排除したことが、成功していると思います。
表現方法によっては反戦色の濃い教育的作品になりそうなところを、
ごくありふれた日常生活と、ありふれない心の傷との対比を通して、
「昔あったこと」ではすまされない命の連鎖を「思い出させて」くれます。
生々しい描写の回避も、七波が両親の過去にさかのぼる場面も、
自然に感情移入できました。
皆実を演じた麻生久美子は、
罪悪感に生き迷う透きとおった儚い美をただよわせていました。
七波役の田中麗奈も、
あかるさの下に行き場のない悲しみを秘めた現代女性をスッキリ見せてくれました。
皆実とは違う罪悪感を抱える母役の藤村志保からは、語らない悲しみが伝わりました。
打越さんも旭(老若)もイメージどおりです。
個人的には、京花を演じた女優さんがすばらしかったと思います。
映画というメディアでわざわざ表現すべきだったのかどうかという向きはあるにしろ、
感動は、どういう媒体でも受け取りかたは同じですから。
評価:★★★★☆
<おまけ:ヤスオーのシネマ坊主>
この映画の監督は「四日間の奇蹟」の監督ですね。僕は小説の「四日間の奇蹟」でいたく感動したので、わざわざ映画館にこの映画を見に行ったのですが、「映画は原作を超えられない」という言葉では済まないぐらい酷い出来でかなり腹が立ったのを今でも憶えています。今回も原作モノで、なおかつ先に原作を読んでいたので、また怒らなきゃならないなと身構えてましたが、今回は怒るほどの出来でもなかったですね。合格点の40点は取れています。内訳は前半の「夕凪の街」が60点で、後半の「桜の国」が20点です。
「桜の国」は登場人物のセリフが説明的で、もっちゃりした空気が漂う典型的なダメ映画です。後半はフジテレビの開局〇〇周年記念ドラマを見てるようでした。合格点狙いで原作に忠実に作ろうとしている姿勢はわかるんですが、途中のラブホのシーンなんかは映画では全然面白くないのでいらないです。研修医の役者もまったく研修医に見えないのでもっといい役者を使った方がいいです。あと、田中麗奈が自分の父親の思い出を振り返るシーンは、後半最大の見せ場なのでもっと見せ方を工夫してほしいですね。あまりにもくだらない演出なので、隣で一緒に見てたさや氏に「何で田中麗奈がここにおんねん。」とツッコミを入れたぐらいです。後半は原作のストーリーがダメだったら20点ぐらいの出来ですよ。良かったのは子ども時代の京花を演じた子役の演技だけです。
前半はわりと良かったですよ。うちわ一つの使い方にも巧さを感じさせる藤村志保の演技はさすがですし、皆実を演じた麻生久美子もイメージ通りです。被爆者が描いたであろう絵で被爆直後を表現するのも、僕は良かったと思いますね。ここで変にグロい描写を入れるとメッセージ性が強くなりすぎてしまうので、原作のもつほわっとした雰囲気がなくなってしまいますから。ワンピースのエピソードも、僕は漫画ではこのエピソードの真意を気づかなかったバカですが、映画では自然に気づかせてくれたので、たいへん感謝しています。明らかにダメなのはプロポーズシーンぐらいですかね。ここを原作と変えないで、凪生と旭にもっとイメージ通りの役者を配置してくれたら、さらに良かったんですけどね。
原作の漫画は声高な教科書的メッセージを排除し、淡々とそして温かい視点で戦争、原爆を個人の視点から描き、歴史の教科書なんかより何倍も戦争や原爆の真実の悲劇をストレートに力強く読み手に伝えてきます。たかだか100ページぐらいの漫画ですが、1コマ1コマに意味があり、伏線も巧妙で、読み返すたびに新たな発見があります。僕は1回目はかわいらしい絵柄と微笑ましいエピソードにだまされて特に感動はしませんでしたが、2回目は泣きそうになりましたから。この映画が腐っても60点取れているのは、「死ねばいいと誰かに思われたのに生き延びているということ」という痛切な言葉を僕に伝えてくれた原作があってこそです。この映画は別に見なくてもいいですが、漫画は絶対に読むべきですね。
評価:★2/(★5で満点)