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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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「恋がしたい」フリーターの里子、

同窓生に片想いするデリヘル嬢の秋代、

過食症のイラストレーター塔子、

恋がすべてのOLちひろ。

さまざまな悩みを抱えて東京で生きる4人の女性の群像劇です。

主人公が多人数の場合、多かれ少なかれ、そのうちの誰かに感情移入してしまうものですが、

この作品においては、誰しもが自分の分身のよう。

里子の達観も、

秋代の死を思うあやうさも、

塔子の頑ななプライドも、

ちひろの涙を隠す強さも、

すべてが自分の中にあるもうひとりの自分なのです。

恋に、仕事に、どこかしら居場所を求めながら、

大都会の真ん中で、裸の自分を誰かに受け止めてほしいと強く思い続ける日々。

ぽつりぽつりとつぶやくようなセリフたちと、

自然光の作る光と影のコントラスト。

それぞれの抱えるヒリヒリ胸を灼くような孤独感が伝わってきます。

またひとつ、人生の階段を登ったところで、映画は幕をおろしますが、

求め続けるなにかはまだ遠く、

人が人を恋う人生の営みは続く。

美しくあるいは醜く、飽きるほどにくり返される日常の一瞬でも、

それは生きていくために必要であった大切な一瞬で。

東京タワーのイルミネーションには及ばないけれど、

彼女たちは太陽の下で階段の先を見つめ、

水面のごとくキラキラと輝いているのです。

誰しもがそうであるように。

難解な演技をこなした女優さんたちのナチュラルな美を照らし出した映像は見事です。

無意味に脱いでいる塔子役の方だけ観たことがなかったのですが、原作者だったとは驚きでした。

評価:★★★★☆

 

<おまけ:ヤスオーのシネマ坊主>

 

 最近、「エリザベス・ゴールデン・エイジ」「アメリカン・ギャングスター」「バンテージ・ポイント」と3連チャンで娯楽作を見ていたので、久し振りにちゃんとした映画を見て疲れましたね。ただ、脚本はイマイチでした。「わたし、塔子のこときらいだった」みたいに、「それを言ったらダメだろ!」というセリフがいくつかありましたから。人間は本当に言いたいことは言わないもんなんです。この映画の監督はこの人にしか作れないリアリティーをきちんと描けていているから、こんな陳腐な脚本じゃなかったらもっといい映画になっていたと思うんですけどね。まあ、この脚本でOK出したのが監督なんだから、監督の責任もありますけど。

 しかし、この監督はなかなかいいですよ。僕がこの映画で一番関心したのは監督です。この人の作品を見るのは初めてですけど、主人公の女性達と、彼女らの生きる社会の関係性を描くのがすごく上手なんですよ。この映画のように大都会で生きる孤独な人間を描いた作品は、大都会を非人間的に描くことによって、そこで生きている人間の孤独さをより浮き彫りにさせていることが多くて、さや氏もそんなことを言っていますが、僕はこの映画はそうは思いませんでした。都会が主人公達の孤独さを浮き彫りにさせるんじゃなくて、彼女らの存在を踏みにじっているように見えました。「孤独に生きているとすら言わせないぞ。お前らの存在そのものを否定してるんだよ。」といった感じですね。それどころか、終盤で彼女達は田舎に集結するんですが、そこですら彼女達は存在が許されていないように見えます。普通の映画だったら彼女達の居場所はここにあったんだ、これからはここで幸せに暮らすんだ、みたいなことを観客に想像させて終わるはずなんですけどね。この映画は決してそうは思わせないです。 まあ、「具体的に他の映画とどこが違うからそうなってるんだ?」と聞かれても、答えられないですが。僕がそう感じただけとしか答えようがないし、感じ方は人それぞれですからね。4人の主人公達の部屋の雰囲気がそれぞれの個性を出している、といった視覚的なことは説明できるんですが、僕はこういう描写はわざとらしすぎて好きじゃなかったです。部屋が極端に暗かったりとか、棺桶に寝ているとかですね。

 ストーリーはそこまで面白くないです。本当に淡々としています。ストーリー展開の妙よりも、キャラクター描写に力を入れている映画です。ただ、男の僕から見て、この映画の主人公達は具体的にそこまで辛い目に遭っているわけではないと思いますけどね。「過去に大失恋してそれを乗り越えたくせに、また恋愛したいってどういうことだ。それも漠然とした願いで具体性がないし、おまけに神頼みとは。」、「誰かを好きになったら、きちんと告白して結果を受け入れろよ。デリヘル嬢やっててキモい客でも大丈夫なのに何で恋愛はうじうじしてるねん。」、「自分の仕事が認められないからといって過食症にまでなるのは頭おかしいだろ。デザイナーなんてしょせん運とタイミングの仕事やろうが。」とちひろ以外の女性の生き方は全否定すると思います。ただ、この監督は主人公達と社会を徹底的に切り離して描いているから、人とのつながりを求めて生きる彼女達が、ひねくれ者の僕でもけなげに見えて、何とか主人公達にも感情移入できましたけど。 

 ちなみにちひろを否定しないのは、ちひろも他の3人と同じくバカなんですけど、彼女だけが唯一自分がダメな人間だということをうすうす気づいていて、最終的に自覚した気がするんですよね。だって結婚願望が強いというのは自分に誇れるものが何もないからだし、ついには彼女を性欲の対象としてしか見ていない男に顔射されますからね。ここまでされたらいくら何でもわかるような気がします。ちなみにこの映画はこの顔射に代表されるように変にエロシーンが多いです。僕は男ですけど、あまり必要性を感じないエロシーンをバカスカ入れられるのは好きじゃないですね。変に女にもてはやされるオシャレぶった映画にしたくないという監督の狙いでしょうか。ここまで違和感を感じるエロシーンが多いと敬遠する女性は多いでしょう。

 評価:★4/(★5で満点)

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