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舞台は1960年代のブラジル、リオデジャネイロの貧民街「神の街」。
暴力と略奪が日常の街で生まれ育った子どもたち。
ブスカペはカメラマンを目指し、
リトル・ダイスはギャングに憧れます。
モーテル襲撃の夜、行方をくらましたリトル・ダイスは、数年後リトル・ゼと改名して舞い戻り、
街を牛耳る最強の悪党と化します。
この作品は、事実をもとにしています。
実話が原作である映画は得てしてドキュメンタリー調ですし、
フィクションでも現実的なものは淡々と描かれることが多いですが、
これは現実をフィクション調に描いている、めずらしい例です。
まともな教育も受けられず、幼少期から銃とクスリにまみれる子どもたち。
そんな世界は許されるものでは決してないし、
それを放置するどころか助長させている政府にも怒りを憶えますが、
この作品は現実を批判し問題提起するために作られたものではありません。
色彩鮮やかな映像と印象的な音楽、それぞれいきいきと描かれるキャラクター。
本来ならば目を覆いたくなるような残酷な場面も、ナチュラルに展開していきます。
描き方には賛否両論あるかもしれませんが、非常に斬新な作り方ではあると思います。
語り手であるブスカペは、ギャングに兄を殺されながら、その存在を憎むでもなく、
ただ自分の生きている世界をありのまま受け止めています。
彼は彼なりに、恋をしたり、童貞喪失の日を夢見たり、念願のカメラを手に入れたり、
時にはワルに手を染めようとして失敗したり、青春を謳歌しています。
それはギャングたちも同じです。
幼いうちに人を殺す快感を憶えてしまい、命を虫ケラのように扱うリトル・ゼも、
親友のベネには絶対的信頼を置き、
彼が悪事から足を洗い恋人とともに街を出る時には、淋しさから無関係の人間にやつあたりし、
さらに自分の代わりにベネが殺されたあとは、復讐のための抗争に全精力を傾けます。
もし、彼らが暴力も貧困もない国に生まれていたら、
きっとごく普通の、なにものにもわずらわされることもなく、たまには悪いこともしつつ、
恋や夢にうつつを抜かす、素直な少年時代を送れたのではないか、と、
詮ない想像に胸が詰まります。
ラストはこの街のこれからを暗示する場面で幕を閉じますが、
それを見届けるブスカペの目はあくまで無機質。
街の時代の転換は自分の青春の終わりでもあることを感じながら、
悲嘆も希望もなにも映し出さない両の瞳こそ、
神なき「神の街」の子どもたちの悲劇であると思います。
評価:★★★★☆
<おまけ:ヤスオーのシネマ坊主>
見る前に分かっていたことなんですが、殺人・暴力シーンはやはり凄かったです。しかし、あまりにも凄すぎて、逆に明るさすら感じてしまったとこが不思議ですね。まだ少年なのに、モーテルで人を大量に殺して笑っているリトル・ダイスの残虐性は何か突き抜けてしまっていますから。彼は大人になっても、「神の街」を牛耳るという目的のために、邪魔者はすべて殺してしまおうとするんですが、彼の暴力には「陰湿性」とか、「憎しみ」とか、ややこしいものを感じません。小中学生の番長争いに通じるような、ただ人を屈伏させたい、それが楽しい、という純粋で無邪気な暴力です。
もちろん、いくら明るくて無邪気なものでも暴力は暴力ですから肯定するつもりもないし、こんな奴が支配する街には絶対住みたくないですが、少なくともこの映画を見て、「こんな小さい頃から人殺しを覚えたこの少年たちの将来はどうなるんだ。早く更生させて教育を受けさせなければいけないだろう。警察も役に立たないようだし、こんな街を放置しといていいのか。広がりすぎた経済格差が問題なんだ。そしてこの映画を見た日本人は世界にはこんな街が存在することを知るべきなんだ。」とか訳知り顔で言えないですからね。それぐらいこの映画、この街での「暴力」は絶対的なものです。そして、「暴力がすべて、力がすべて」のこの街で、ぎらぎらとした欲望を秘めながら生きる若者達のエネルギーに、ただただ圧倒されてしまいます。
この映画の語り手である、恋と写真に熱中し暴力はあまり得意そうには見えないブスカペは、他の少年達のようにぎらぎらした生き方はしていません。だから、彼は「神の街」では浮世離れした生活をしているように見えます。しかし、彼こそが僕ら側の人間ですね。唯一感情移入できます。彼がいないとこの映画は見ててしんどいですよ。この映画の主人公はもちろんリトル・ゼ(リトル・ダイス)でしょうが、ブスカペも重要な役割を果たしていると思います。
あと、この映画は時間軸を自由に操った練られた脚本といい、テンポの良い展開といい、効果的なカメラワークによるスタイリッシュな映像といい、生き生きした個性あるキャラクターといい、テーマは好き嫌いあるかもしれませんが純粋に出来が良い映画なんですよ。さや氏と合議制で見る映画を決めるようになってから、良い映画ばっかり当たるようになってしまって困りますね。たまには悪口も言いたいんですけど。趣味も性格も異なる二人がそこそこ見たい映画というのは、やはり良い映画なんでしょう。唯一の外れが僕がゴリ押しで見ることを決めた「インランド・エンパイア」ですから。
評価:★4/(★5で満点)