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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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舞台は第二次大戦中のドイツ。

ナチスに捕えられたユダヤ人サリーは、

世界的贋札師であったその経歴を認められ、

英米経済を混乱させるための大量贋札製造「ベルンハルト作戦」への協力を余議なくされます。

強制収容所内とはいえ、まっ白なシーツのベッド、あたたかい食事、お湯の出るシャワー。

仕事の合間には卓球に興じ、音楽を聴く。

しかし、こうしている合間にも離れた家族の安否は知れず、

塀一枚隔てた先では、同胞たちが無残に殺されていく罪悪感。

自分たちも、贋札作りがうまくいかなければ命はない。

それでも贋札を作れば作るほどナチスの支配を強めることになる現実。

技術者たちは深いジレンマに陥ります。

それでも彼らは懸命に生きていきます。

ある者は正義を貫き。

ある者は職務に徹し。

ある者は仲間を庇い。

未来さえも鎖された空間で、彼らは己のプライドと誇りを胸に、生を全うしようとしました。

生きて生きて、生き抜いて、

それでも戦争の終結はすなわち歓喜ではなかったラストが、

強く胸を打ちました。

捕えられている間に家族を失っていた仲間は、その瞬間に自ら命を絶ちました。

彼の亡骸を抱え、収容所内を彷徨うサリー。

どこへ行けばいいのか、何をすればいいのか。

救う手は、戦時中も戦後もさしのべられないまま、

ただ失ったものだけがあまりに巨大で、

世界だけが大きく回転し、

虚無の中へ放り出された傷だらけの命。

贋札をカジノでばらまきながら、サリーは何を思っていたのでしょう。

戦争が、支配が、いったい何を産み出したというのか、

残酷な歴史を浮き彫りにした秀作でした。

評価:★★★★(4.3)

 

 

 

 

 

 <おまけ:ヤスオーのシネマ坊主>

 

 この映画はアカデミー外国語映画賞を獲得した映画だそうですね。しかし僕にとっては、そこまでつまらなくはないですが、面白くもない、印象の薄い映画でした。心にまったく響いてこなかったです。前にも僕はさや氏のブログで言いましたが、たましいを持った作品というのは、技術の上手とか下手とかは関係なく、必ず人の心を揺さぶることができるはずなんです。だからこの映画を作った人には、心の底からこういった作品を作りたいんだという情熱はなかったと僕は判断します。同じアカデミー外国語映画賞を獲った「善き人のためのソナタ」はいたく感動したんですけどね。世間の評価は「ソナタ」も「ヒトラー」も良いみたいですが、僕の評価は全然違います。別に感動しなくても面白ければそれでいいんですが、この映画は事実を基にした映画ですから、ストーリーに盛りあがりもヒネリもないですしね。

 

 ストーリーが地味なうえに、感情移入できる魅力的なキャラクターもいませんでしたね。一番意味が分からんのはブルガーという奴です。こいつは「贋札作りはナチスに加担することになり同胞への裏切り行為になる」という自分の理念のもと、贋札作りを急がせるナチスに対してあえて仕事を遅らせ、ナチスを怒らせ、仲間達に多大な迷惑をかけます。こいつの人間描写が浅いので、どうしてそこまで理想に固執するのかが良くわからず、ただの腹の立つキャラでしたね。どうして自分や身近な仲間の命より民族という大きな共同体を優先するのでしょうか。身近にいる仲間も同胞でしょう。まったく意味がわからないです。もちらん、こいつを必要以上にかばう主人公のサリーも、僕にとってはもちろん意味のわからないキャラです。

 

 プロットは良かったと思います。この映画には「死」をキーワードとするクレマトリウムや絞首台、人体実験場などは出てきません。主な舞台となる贋札作りの施設は他の収容施設から隔離され、ベッドは清潔だし、卓球台なんかもあるし、比較的恵まれた環境になっています。こういう施設にスポットを当てた映画やドキュメントは観たことがなかったので、新鮮でしたね。しかし、そのような環境にいる人達でも、自分もどうせいつか死ぬのだという気持ちが消えることはないというのが、本当のシャワー室をクレマトリウムと思い錯乱する人の描写などでよくわかりました。

 

 僕はこの映画を見た後、一緒に見てたさや氏に動物の話をしました。僕はナチス関連の映画を見ると、いつもガス室繋がりで保健所の犬猫の殺処分を想像してしまうんですね。一般的に、ガス室で空気を抜きつつ二酸化炭素を入れるという方法で犬猫は処分されます。二酸化炭素は空気中に存在するもので別に毒ガスではないですから、吸ったからといってすぐに死ぬわけではなく、死ぬまでにかなり苦しむのはどんなアホでも想像がつきます。その後は焼却炉に落ちていくだけです。正確な処分数は知りませんが、僕があるバラエティ番組がきっかけでこういうことを調べた約10年前で、犬猫足して50万匹ぐらいでしたね。犬は首輪をつけた元飼い犬っぽい成犬が多いです。引き取りも捕獲も含めて。子犬は引き取りの人気があるようで、あまり処分されないようですね。猫は小さいのが多かったです。猫は保健所の捕獲義務がないので、避妊手術をしないアホな飼い主のもとで生まれた子猫の持ち込みが多いんでしょう。ちなみに僕はたまにテレビで動物虐待して捕まっている奴には、なぜかそんなに腹は立たないんですよ。かわいそうな奴だなあとは思いますが。ただ、飼っていた犬や猫を保健所に持ち込んだり捨てたりして、一般社会でぬらっと生きてる奴らは、心の底から死んだらいいのにと思いますね。

 

評価:★2/(★5で満点)   

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