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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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気の強い姉妹たちに囲まれ自分の存在価値を測りかねる少年・ジェスは、

隣に引っ越してきた風変りな少女・レスリーと探検して見つけた川の向こう岸に、

ふたりだけの王国「テラビシア」を造ります。

城を建てたり、兵隊を呼び寄せたり、怪物と闘ったり、

無限に広がる空想世界で彼らは王となり女王となり、

夢と想像に満たされた時間を過ごします。

大人には知られたくない秘密基地。

理解してくれない家族との距離。

男の子よりも足が速く自我の強い女の子。

ちょっと憧れる女の先生。

恋には満たない友情を超えた異性への想い。

かつて子どもだった自分を重ね、

郷愁を誘うキーワードが散りばめられた切ない作品です。

空想がもたらす幻想世界という点では『パンズ・ラビリンス』に似ていますが、

出逢いと別れの中で揺れ動く主人公の心の動きに焦点を置いているので感情移入しやすく、

テラビシアに架けられた新たな橋を渡るラストにも感動を憶えました。

夏休み、実家に帰ってふと昔を思いだした時にぴったりの映画かもしれません。

評価:★★★★☆

 

 

<おまけ:ヤスオーのシネマ坊主>

 

 僕はこの映画のことはまったく知らなくて、さや氏がDVDを借りてきたのですが、パッケージから判断して「最近ファンタジー映画が乱立しているし、どうせ『ナルニア国物語』や『ライラの冒険』を観た流れで惰性で観る人を狙ったしょうもない映画だろう。」と思っていました。しかし実際観てみると全然そんなことなかったですね。まず、ファンタジー映画なんですが、ファンタジー要素は弱いです。ファンタジー世界は描いているものの、その世界はあくまで主人公達の空想であるときっちり言い切っていますから。主人公も「テラビシアなんてしょせん空想の世界や」という割り切った気持ちを持っていますしね。そして、普通に出来がいいです。ここが一番驚きましたね。こういういい映画はせめて僕が存在を知るぐらいは宣伝しないともったいないですよ。今回はさや氏のファインプレーで何とか助かりましたけど。

 

 タイトルにある「テラビシア」が主人公の子ども達の空想する世界のことなんですが、明らかに現実社会と乖離している寝ぼけた空想ではなくて、主人公たちが現実社会で生活していく中で生まれる様々な感情と密接な関係にあります。たとえば現実世界で主人公たちをいじめている奴はテラビシアでは悪役で登場するし、現実世界で心が通じ合った人は味方として登場したりします。「黒い影」も「巨人」もストーリーが進んでいくと誰のことを示しているかが分かってくるし、彼らを見てると主人公の心の動きが非常によく分かります。この映画の主要なテーマは、タイトルから推察すると、「大切なものを失った悲しみを乗り越えること」だと思うんですが、それ以外にもいじめだの家族だの色々なテーマが内包されています。しかし現実世界とテラビシアの両方を丁寧に描くことによって、さまざまなテーマをうまいこと消化させていると思いますね。

 

 テラビシアに橋を架け、新しい女王をテラビシアに迎え入れるというラストも良かったですね。テラビシアも現実世界も否定しないという主人公ジェスの決意もありますが、妹のメイベルにもテラビシアの素晴らしさを味あわせてあげようという、やっとこさ出てきた彼の兄弟愛が良かったです。ジェスと、ヒロインのレスリーと、メイベルと3人でスクールバスで下校しているのに、いつも妹だけ仲間外れにしてテラビシアに連れて行かないジェスにイライラしていましたから。ワーキングプアで厳しいことばかり言う父親に複雑な感情を抱いていて、その父親にストレートに甘えるメイベルに嫉妬するのは分かるんですが、少なくともメイベルは兄を慕っているように見えましたからね。僕にも妹がいますが、自分がジェスぐらいの年齢の時に、自分の父親が妹ばかりひいきするという思いは確かにありました。しかし僕は父親のことは嫌いでしたが、妹とは仲良かったですからね。僕はジェスより精神的に大人だったということでしょう。ジェスはラストでやっと僕に追いつきましたね。

 

 子役二人の演技も良かったです。ジェス役を演じている子はどう見ても活発なタイプなので役に合っていないですが、合っていないなりにまあ頑張っていたと思います。「ザ・スーラ」の時よりは格段に演技が上手になっていますね。

 

 

 

評価:★4/(★5で満点)  

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自己紹介:
ヤスオーと古都の片隅で暮らしています。プロ野球と連ドラ視聴の日々さまざま。
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