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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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転勤先でリストラに遭い故郷に戻ってきた賢三は、実家に溜まっていた郵便物の中に、

高校の同級生だった山口美甘子からの手紙を見つけます。

便箋にはたったひとこと「あなたのせいなのだから」。

その手紙を書いたあと、美甘子は自殺していました。

そんな冒頭で始まるこの物語、賢三の回想とともに舞台は80年代へ。

くだらない話題に盛りあがるクラスに溶けこめない賢三は、

非社交的仲間と夜な夜な集まっては酒を飲み、アンダーグラウンドな音楽を聴きながらも、

悶々とした生活を送る日々。

「俺はアイツらとは違う」という言葉も、

薬師丸ひろ子のグラビアをオカズに耽る自慰行為の俗物性にあえなく昇華していきます。

健康な男なら恋もする。

いつもアイドルや少女マンガの話で盛り上がっているクラス一の美少女が、

自分と同じように映画館に通い、マニアックな話を展開し、あっさり論破するとあっては、

アイツらとは違うはず、だけどなにが違うのかわからない。そんな毎日から三段跳び。

賢三は仲間とバンドを組むことを決意します。

高校生とバンド、といえば『青春デンデケデケデケ』を思い出しますが、

田舎ののどかな風景となにかに夢中になるエネルギーと、

ちょっぴりの切なさを交えた青春賛歌であった彼の作品とこちらは趣が異なり、

主人公はバンド仲間が盗んだ美甘子のブルマーをこっそり持ち帰るし、

そのヴィーナス美甘子は最後にとんでもないことをやらかしてしまう。

青春は間違いだらけ。

素直に生きればいいものを、やたら背伸びしたがって、

思えば取り返しのつかないことはいくつもあって。

あの向こうには光が見える、そう信じて疑わなかった青春時代はいつしか過ぎ去り、

風景はあっという間に色あせてしまったけれど、

チョコレートで走り抜けたあの日々はやっぱり今も輝いていて。

間違いすらもいとおしく、その果てにある今もいとおしく。

グミで歩くことしかできなくなった大人たちの胸を満たす、パイン味の映画です。

評価:★★★☆(3.8)

 

 

<おまけ:ヤスオーのシネマ坊主>

 

 僕の高校時代というのはもう本当に最低でしたね。スポーツとか音楽とか絵画とか特殊な才能が何もなかったし、勉強は少しはできたんですが、「頑張って勉強して良い職業に就いたら美人と結婚できる。しょうもない職業だったらブスと結婚することになる。」という小学校時代から抱いていた思想が、実は実際そうでもないことが分かってきて、勉強も頑張ってなかったですね。もちろん彼女なんていなかったし、本当に何もしていなかったですね。こういう人間はこの映画の世界観はすごく好きなんですよ。ちなみに僕はこの映画にちらっと出ている、峯田和伸がボーカルのバンド「銀杏BOYZ」も大好きです。他のバンドを全否定してしまうぐらい好きです。このバンドの世界観はこの映画とかなり似ています。

 

 しかし、僕がそういう世界観が好きだから分かるんですが、この映画の監督はこの映画の世界観を本当は好きじゃないと思いますね。それがこの映画の致命的にダメなところだと思います。映画が始まって15分たったぐらいは「この映画はいいな~。さすが峯田が好きな小説が原作の映画だけある。満点だなあ。」と思ってましたが、だんだん監督の本音が分かってきて、冷めてきました。この監督は僕とは違って楽しい高校生活を送っていたんでしょうね。「オナニー」の描き方だけでも分かりますよ。暗黒の高校生活を送っている者にとって、オナニーは人生のすべてです。妄想してオナニーをするためだけに生きています。しかしこの監督はオナニーにそこまでの思い入れがないから、観客の笑いを取るためだけの道具として使っています。オナニーに対する熱い思いがまったく感じられません。

 

 また、この映画は原作にはない主人公達の大人時代を描いています。そのこと自体は別に否定しませんが、描いた理由が、「大人になって変わってしまった。こんな大人にはなりたくないと考えていた大人になってしまった。」という陳腐な発想のように感じましたからね。そんな描き方は他の本や映画で飽きるほど観ています。そんなしょうもないことを言いたいがために原作にないシーンを入れるなと言いたいですね。この監督はそういう大人をダメだと思っていて、そういう描き方をしているようなんですが、「ダメ」という言葉の意味をわかっていないような気がします。僕が監督だったら、純心な子どものような心を持っているわけではないんですが、たいていの大人が持っている社会性とか、常識とか、そういうのをどこかに置いてきたような大人を描きます。会社で1日3回オナニーをするような大人ですね。こういう「ダメ」の方が原作の世界観に合うような気がします。

 

 銀杏BOYZの「十七歳」という歌に、「あいつらが簡単にやっちまう30回のセックスよりも、『グミ・チョコレート・パイン』を青春時代に1回読むってことの方が、僕にとっては価値があるのさ。」という歌詞がありますが、残念ながらこの映画にそこまでの価値はありません。セックスの方が価値があると思います。ただ、セックスより価値のある映画というのはそんなにないもので、この映画についても悪口ばっかり言ってますが、それは僕の原作や銀杏BOYZや童貞やオナニーに対する思い入れが強いからであり、客観的に見たらそんなに悪い映画じゃないと思います。ラスト付近の主人公とヒロインの帰り道の描写はなかなか良かったですし、まあ佳作といったところでしょう。

 

評価:★3/(★5で満点)  

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